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北海道 田口 拓也

1.はじめに

都会の中心に位置する本校の子供たちを囲む自然環境は,決して恵まれているとはいえない。子供たちの『理科離れ』『自然とのかかわりの希薄さ』が叫ばれて久しい今日,我々はこのような環境下でも,体験的な活動を大切にし,できるだけ自然とかかわる機会を設けてきている。それゆえ,『自分なりの観察・実験方法で解決しようとする中で,友達の見方や考え方を取り入れながら,自然に対する自己の学びの高まりや深まりを感じ取ることができる授業』という授業像を設定し,日常の実践にあたっている。
6年生の理科の学習では,以下の2点を大切にした授業づくりを心がけた。


○見通しをもって観察・実験を行う
自分の見通しと観察・実験の結果を照らし合わせることで,相互関係や規則性を探ろうとする問題意識が生まれてくるようにする。

○多面的な視点から観察・実験を行う
3年生から5年生までに育成されてきた「比較する力」「関係づける力」「条件を制御する力」を,様々な場面で使い分けていけるような授業を行っていく。さらには,1つの実験結果から結論を導き出すのではなく,様々な視点から観察・実験を行い,結論を導き出すことを大切にする。

2. 授業実践(1)〈『呼吸』の場面から〉

『呼吸をする』『食べる』ということは,毎日の生活の中で欠かすことのできないことであるが,その役割やプロセスは,あたり前のことであり,子供たちにとって実感を伴って意識されるものではない。そこで,自分の体に対する興味・関心を高めるためにも,『運動の前後の体の変化』を調べることから学習をスタートした。いつも起きている体の変化とはいえ,子供たちは,呼吸数・脈拍(心臓の動き)・汗のかき方・のどの乾きなど,その変化の激しさに目を向け,自分の体について問題意識をもち始めた。
始めに子供たちの問題になったことは,呼吸の役割についてであった。吸い込む空気と吐き出す空気について話し合うと,


・袋の中の空気を何度も吸っていたら苦しくなるよ。酸素がなくなっているのではないかな・・・
・人の吐く息は二酸化炭素だって聞いたことがある。袋の中は二酸化炭素だらけではないか・・・
・人間は,酸素を吸って二酸化炭素を吐いているんだよ・・・
・それじゃあ,人工呼吸はどうなるの・・・?二酸化炭素を吹き込んでいるの・・・
・吐く息が二酸化炭素だったら,この部屋中がすぐに二酸化炭素だらけになるよ・・・

と, 生活経験や6年生の『物の燃え方と空気』の学習を生かしながら話し始め,『呼吸のしくみ』についての問題意識を高めていった。ここで,自分の考えと実験方法をカードに書かせ,実験方法をクラス全体で検討していった結果,3つの実験を行うこととなった。
〈石灰水で〉袋の中が二酸化炭素だったら,石灰水が白くにごるはず。
〈ろうそくの炎で〉二酸化炭素でいっぱいだったら,ろうそくがすぐ消えるはず。
〈気体検知管で〉酸素や二酸化炭素の量を調べると,変化の量をはっきりさせることができるはず。


実験
グループごとの実験場面では,空気中・呼気中の酸素や二酸化炭素の量の変化を,3つの実験を通し判断させていくことを大切にした。また,『周りの空気』と『1回の呼気』『10回の呼気』を比較する視点を引き出すことに,教師のかかわりの重点を置いた。

どのグループも,石灰水の実験から取り組み始めたが,石灰水の反応は見た目にもはっきりし,『周りの空気』と『1回の呼気』『10回の呼気』を比較し,二酸化炭素が明らかに増えていっていることをはっきりさせた。
ろうそくの炎を使った実験では,『ものの燃え方と空気』の学習を想起し,子供は,水上置換の方法を使って集気瓶に呼気を集め実験に向かった。ろうそくの炎の消え方でも,『周りの空気』と『1回の呼気』『10回の呼気』を比較すると,呼吸数が増えていくと,その時間が早くなり,二酸化炭素が増えていっていることをはっきりさせることができた。

一方,気体検知管の実験では,正確なデーターを出しているのだが,なかなか「二酸化炭素が増えている。」とは実感できないようであった。これは,増えた二酸化炭素の量が数値で出てきてしまうためである。『10回の呼気』を気体検知管で調べると,確かに2%〜3%の二酸化炭素量を示す。しかし,子供にとって,2%〜3%という数値は「増えている」とは,言い切れない数値なのである。6年生といえども,全体の割合での増加を考えることは難しく,2%〜3%という数値に左右されてしまうのである。また,石灰水があっという間に白濁する様子を見ていたため,「かなりの量の二酸化炭素が増加している」と,その増加の量をイメージしてしまったのである。そこで,子供たちは,呼吸数に応じてどのくらい二酸化炭素が増えるかに目を向け,袋の中での呼吸の回数を15回・20回と増やし追究を重ねた。しかし,袋の中の空気が,かなり息苦しい状態になっても,子供たちの実験では3%が限界であった。そこで,この場面では,

結果の見直し
数値だけで判断するのではなく,「何倍になったか」という,データーを見る視点を変更させていく教師の関わりが必要になってくる。
空気は,酸素が21%  二酸化炭素はほとんどない呼気は 酸素は18% 二酸化炭素は3%

二酸化炭素を0.1%とすると,30倍にもなっている。

結論
実験後の話し合いでは,石灰水やろうそくの実験をもとに呼吸の仕組みを推論し,「確かに二酸化炭素が増えている」という声があがってきた。さらに,気体検知管で明らかになった数値をもとに,「二酸化炭素の量は30倍にもなっている」「30倍って,100ミリリットルが3リットルになるってことだよ・・・」「呼吸で酸素がこんなに二酸化炭素に変化しているんだよ。」「でも全部が二酸化炭素に変化しているわけではないんだ。」「吐いた息の中にも酸素が残っているから,人工呼吸も大丈夫なんだ。」と,呼吸によって酸素が二酸化炭素に変化しているということを結論づけるだけでなく,生活に結びつけて実感する姿を見せた。


1つの実験から考えるのではなく,「石灰水では・・・」「集気瓶の中のろうそくの炎は・・・」「気体検知管では・・・」と,様々な視点から実験を行い,結論を導き出そうとする子供の姿を大切にした授業づくりを目指していく必要がある。また,気体検知管を利用する場合には,示された%の数値をうのみにするのではなく,「何倍になったか」とその量の変化に見方を変えていくことで,子供たちは,実感を伴った理解をすることができるのである。

3. 授業実践(2)〈『だ液の消化』の場面から〉

毎日のように口にしているご飯だが,そのご飯をじっくりとかみ,その味を味わっていくことは,なかなか経験していない。そこで,その経験を通すことで,子供のだ液に対する素朴な見方と,今かみしめているご飯の味との間で,子供の見方や考え方が再構成される。単に,だ液に対する見方や考え方を引き出すのではなく,そこに「かんで味わう」という体験を取り入れる場を設定することが,『だ液の役割は?』という問題意識を高めていくことにつながるのである。

ご飯を一口よくかんで味わい,だ液の役割を考え始めた子供たちの見方や考え方は,大きく2つに分かれた。1つは,「飲み込みやすくする」という考え,もう一方は,甘くなったということから「でんぷんをちがう物に変えている」という考えである。話し合っているうちに,「飲み込みやすくする」という子の中に「だ液は飲み込みやすくするけど,かんだことで,ご飯の中の甘みが出てきた」という考えや,「体温で,でんぷんが変化したのではないか」という新しい考えが生まれてきた。ここで,一人一人に実験方法をカードに書かせ,クラス全体で話し合ったところ。右のような10の実験方法に整理された。

実験
6年生の子供たちは,制御すべき要因と制御しない要因を区別しながら実験方法を考えていくことができるようになっている。この力を使い,グループごとに自分たちの考えをはっきりさせるために,10の実験の中から,必要な実験をどう組み合わせて実験していくかを計画させ,多面的に追究させて判断させていくことを大切にした。

グループ内でも,『だ液の役割』に対する見方や考え方はちがっており,同じ実験を行っても,その見通しには『ちがい』がある。例えば『つぶすだけの活動』であっても,「噛んだら甘みが・・・」と考える子にとっては,でんぷんでないものに変わっていなければならないし,「飲み込みやすく・・・」と考える子にとっては,でんぷんのままでならなければならない。子供たちは,だ液のはたらきをはっきりさせようと,どのグループも,6〜7つの実験を組み合わせ,計画的に実験を進めようとする姿を見せた。

実験結果は,試験管を使った多くのグループで「だ液を加えてつぶしたもの」のヨウ素液反応が出なく,赤紫色を示した。これは,試験管を握りしめながら実験を行ったため,手の温度で試験管の中が温まったからである。試験管立てに試験管を立てて実験を行っていたグループや乳鉢にだ液を入れて実験を行っていたグループは,ヨウ素液反応がおき,紫色を示した。同じようにだ液を入れて実験を行ったのに,結果にちがいが出てしまったのである。

結論1
実験後の話し合い場面では,「だ液がでんぷんを別の物に変えた。」ということが話し合いの中心となっていった。しかし,乳鉢で実験を行っていたグループと試験管立てに試験管を立てて実験を行っていたグループは,ヨウ素液反応が出てしまい「別の物に変わった。」とは言い切れないと主張をする。この対立に,試験官を握って実験をしたグループの子供たちは,「だ液を入れてもでんぷんがあるのは,だ液の量が少なかったのではないか・・・」「つぶし方が悪かったのではないか・・・」と,相手の実験方法の不備さに結論を求めようとし始めた。話し合いを進めていても,お互いに納得する結論を導き出せないでいる状態であった。そこで,この場面では


実験方法の見直し
もう一度,問題になる実験方法やデーターを整理し,実験方法を見直す視点を与えていく教師の関わりが必要になってくる。
試験管にだ液(試験管立てに立てた)→でんぷんが変化していない。
試験管にだ液(手で持った)→でんぷんが変化した。
乳鉢とだ液→でんぷんが変化していない。

手で持っているのは,温まっているのではないか
だ液は温まらないと働かないのではないか?
実験方法を見直そう!


と,子供たちは新しい実験方法を考え,活動を発展させていった。

結論2
再実験後の話し合いでは,だ液がでんぷんを別の物に変えているということを納得するだけでなく,「だ液は温かくないと働かないんだ。」「体温って大切なんだな・・・」と,生命の巧みさを実感する姿も見せてくれた。


正しい結果を得られる実験だけを行わせるのではなく,子供たちが考えた実験を通し,得られた結果や方法と比べながら,問題になる実験方法やデーターを整理させ,実験方法を発展させる場を大切にしたい。そして,この場が,教師がサポートしなければならない場である。このように,子供たちの手で実験方法を工夫していく授業づくりを目指していくことで,子供たちは,6年生なりの『科学』を創りだしていくことができるのである。

4.おわりに

子供たちの『理科離れ』『自然とのかかわりの希薄さ』が叫ばれて久しい今日であるが,本校の子供たちは,理科が大好きである。理科好きな子供たちのポイントとして,観察・実験は大きなウエートをしめている。ここで大切にしたいのが,観察・実験が子供の主体的な問題解決の中に位置づいていることである。
これからの教育では,自ら課題を見つけ,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を育てることを大切にしていかなくてはならない。そのためには,子供の見方や考え方を引き出しながら,子供が自ら問題意識を深め,活動を連続させていかなければならない。その際,子供が適切に観察・実験を進め,科学の世界を創り出すには,教師のサポートが不可欠である。子供が,目的意識をはっきりもって,機器を正しく,有効に使いながら観察・実験をする理科の授業では,新しい視点で事象を見るようにさせる教師のかかわりや,問題点を明らかにさせながら子供の手で問題解決に向かわせていく教師のかかわりが求められている。
今後も,子供たちが,問題解決に向かい,事象とかかわり,友達とかかわるなかで,自分の見方や考え方を深めていく学習を目指していきたい。理科の学習が子供にとって価値のあるものであるために,授業が子供の主体的な問題解決として展開されているかどうかを考えながら,実践を積み上げていきたいと考える。