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北海道 山口 宏先生

1.理科で企画する総合についての考え方

本校では14年度から実施される新教育課程で、総合的な学習の時間が導入されるにあたって、理科としても関わりが生じてくると考えました。特に、環境に関する内容については、実験は不可欠となるであろうと判断しました。そこで、課題を見つけ、問題を解決するにしても、ある程度環境に対する基礎知識やその調査方法等についてどのようなものがあるのかを押さえさせておかなければならないだろうと考えました。従って、これらのことを身につけるために、まず環境を題材として取り組んで生徒の反応や技術を確認してみることにしました。特に人間が生きていく上で不可欠な水との関係を題材にし、水質汚染の原因、水質を調べる方法とその習得、さらにその影響と自己の生活の見直し等を中心に1,2年生を対象に平成11年度から実施してきました。

2.環境教育の目標・重点・留意点

環境教育を行うにあたっては以下のことを題材目標として設定しました。
(1) すすんで汚染状況を調べ、汚染を防ぐための方法や、今後の生活改善に向けての方法を身につけ実行しようとする姿勢を身につける。〜関心・意欲・態度
(2) 汚染の状況や原因について実験を通して分析し、これまでの生活や今後の生活と結びつけて考えることができる。〜科学的思考力
(3) 実験を協力して行い、簡単な水質分析の方法を身につける。〜実験・観察の技能
(4) 汚染についての基礎知識を身につけ、その分析方法や自然生態系への影響を知る。〜知識・理解

そして、単に知識や調査方法を身につけるだけではなく、『地球規模で考え、足下から行動する』と言う言葉もあるとおり、各自が『どのように生活・行動すべきか』と言うところまで生徒の意識を持っていく必要があると考えています。そのためには以下の点が大切だと押さえました。

i. 生徒が自分のこととして考えられるよう身の周りの素材を使用して実験できるようなもの取り上げる。
ii. 結果が明確に現れるよう試料を調整する。
iii. 1時間の授業の中で結果を導き出せるような内容や検査を行う。

以上の点を基に本校で11年度と13年度に実施した2例を載せますので、何かお気づきの点等指摘していただければ幸いです。

3.実践事例1(平成11年度実施 指導教諭 山口 宏)

(1)指導計画
1校時; 水質汚染の原因を知り、水質調査の必要性、方法等を知る。
2校時; 実際に身のまわりのものでどの程度の汚染がおこるか確認し、発寒川(校区の川)の状況も調べてみる。→実験(本時)
3校時; 前時の結果を基に生活していく上でどのような点に注意しなければならないかを考える。

(2)本時の目標
(1) 環境の大切さをおさえ、わずかな物質でも水を汚染させることを理解する。
(2) 汚れた水を稀釈し、きれいな水とほぼ同じ状態にするには大量の純水が必要になることを理解する。
(3) 班で協力し、スムーズに実験を行うことができる。

(3)実験の内容
(1) 純水と純水1000cm3に2cm3の牛乳と、アルカリ洗剤を加え資料とし、各班に配布する。
(2) 各々の資料について、COD及びpHのパックテストを行う。
(3) 牛乳や洗剤を加えた資料で透視度を確認する。
透視度を測定するための2重線を描いたマーク(右図)は水質調査に関する図書に掲載されているのでコピーして使用しました。その上に200ml用のメスシリンダーをのせ資料の液体を入れ測定すればよい。
(4) 各班(12班)に希釈倍率を変化させ、資料を薄めさせ、再度CODパックテストを実施させる。この結果を集約し、ほぼ純水と同じ結果になるためには何倍に薄めなければならないのかを確認させる。
10倍から100倍程度で各班に異なる倍率を指定する。
(5) 校区を流れる発寒川の水を配布し、その水について水質検査を行う。
(6) 最後に牛乳200?を水に流した時、その影響をなくするためには何[?]の水が必要かを計算させる。

(4)授業を終えて
他の指導内容との関係から3時間しかとることができなかった。その結果、特にこの実験の時間はあわただしいものとなってしまった。この実験は2時間で設定した方がよかったように思われる。
実験結果は各班ともほぼ正確な結果が得られたが、パックテストにおいては、色を確認するまでの時間は正確に計る必要がある。ここが不正確だったため正しい結果にならなかった班もあった。
少量の牛乳や洗剤でも水質を汚染することや、またその汚染を回復するためには大量の純水が必要であるということが生徒は理解できた。
少量の牛乳や洗剤でも水質を汚染することや、またその汚染を回復するためには大量の純水が必要であるということが生徒は理解できた。

4.実践事例2(平成13年度実施 指導教諭 森越 千恵子)

(1)指導計画
1校時; 自然界の水の循環について知る。 札幌市の上下水道の仕組みについて知る。 河川の汚染源について考える。
2校時; 様々な性質の水があることを知る。
3校時; パックテストによる水質の検査方法を身につける。
4校時; 油と洗剤を混ぜた水をつくり、その水質検査を行う。
汚染された水のゾウリムシに対する影響を調べる。→実験(本時)
5校時; ゾウリムシに影響を与えない汚染濃度を調べる。
これまでの学習から、今後どのように生活することが大切なのか考える。

(2)本時の目標
(1) 環境の大切さをおさえ生活の中で排出しているわずかな物質でも水を汚染させることを理解する。
(2) 活性汚泥との関連も含め、微生物に対する影響を理解する。
(3) 班で協力しスムーズに実験を行うことができる。

(3)実験の内容
(1) 食用油とアルカリ洗剤を適当に加えた溶液を作り、配布する。
(2) pH、COD、NO2のパックテストを行う。
(3) ゾウリムシをフイルムケースに入れておき、それを配布する。ホールプレパラートに1〜2滴ゾウリムシのいる液を入れ、プレパラートを作る。
(4) 生きている平常時のゾウリムシを観察し、その動きを見る。
(5) そのプレパラートに洗剤液を加え、その変化を観察する。

(4)授業を終えて
1校時の授業においては、札幌市の環境に関するホームページから資料を引用した。比較的わかりやすい資料でもあり、授業で十分活用できるものだった。
食用油と洗剤を使用したのは生活排水との関係を生徒に理解させる上でも効果的だったように思われる。
生徒は生きている生物を観察するという経験が少なくなってきているようで、単にゾウリムシが動いているだけでも予想以上の反応があった。理科の他の授業においても直接生きている生物を観察していくような内容を取り入れていく工夫が必要かもしれません。
ゾウリムシの培養には市販のミネラルウォーター、オシムギと液体カロリーメイトを餌として与えた。原因はわからないが他の微生物(ブレファリスマ)も混入していたが、大きさがゾウリムシより極端に小さかったため、区別が付きやすく観察に支障はありませんでした。

5.『総合的な学習の時間』との関わり

以上の内容で学年全員を指導した後、各自が課題設定、探求へと進んでいことになります。この時間はそのための基礎的な知識、技能、考え方を身につけさせる時間としています。学び方、調べ方を指導し、その基礎の上に生徒がより質の高い内容に取り組んでいくようになることをこの時間のねらいとして押さえて指導しています。

6.まとめ、今後の課題

今回、一連の授業を通して次のことが今後の課題としてとらえることができました。
生徒一人一人に今後どのようなことに留意し生活していくべきかを考えさせることが大切となる。
実施に際しては、ワークシートを必ず作成し進めていったが、その内容もさらに検討・改善を加えていく必要がある。
総合は本来生徒個々が個別の課題を設定して取り組んでいくものだが、生徒が個別に設定した課題に対して、関わりを持ち、指導していくことができるような準備を整えておくことが今後の大きな課題となる。
水質だけでなく、大気汚染等の問題も指導できるような準備が必要となる。

7.最後に

今回の内容は不十分な点も多々あろうかと思います。ただ、このような授業も決して一人で行えるものではなく、理科部の先生方の協力によるもので、この体勢を今後も崩さずに実践を重ねていくことが様々な課題を解決するための条件だろうと思います。
また、ゾウリムシを分けていただいた札幌市立厚別南中学校の青柳 明典先生には、はなはだ失礼ではありますが紙面をお借りしまして、御礼申し上げます。